私の母方の家系の出自
それが
 
か み う け なぐ ん お も ご む ら
 上   浮 穴  郡   面  河  村

県庁所在地の市より
車で1時間と半分
くねった山道を行き
山の森の中
深く
深く
人が
ずっと息づいてきた
村・・・

せせらぎが流れ
豊かな湧き水を利用し
畑と
田圃で
大地の恵みを受け

山の木々を
山とともにはぐくみ
森を
林を育て
その恵みを受けてきた

せせらぎには
嘗て豊かに
川魚が生きていた
・・・今は護岸工事のため
彼らの姿を見ることはあまりない

嘗ては
養蚕をしてもいた
蚕さんの繭から取れる
良質の絹で
厳しい冬に
山間の屋敷で
機を織っていたという

106歳にして
天寿を全うした曾祖母
その子供たちは
みなやがて80を迎えようとしている
そして
その子供たちは
山の村にはいない

曾祖母は
最後の別れのときに
初めて玄孫を見た
物心つかない玄孫は
お棺の中の小さな老女を見て
「ば、ちゃ・・・ん?」
とつぶやいた

今思い返してみれば
不思議に思う

玄孫は
物心つかなくて
久しぶりに会った叔父に
人見知りをしていたのに

母親
祖母が
「ばあちゃんだよ」
と教えると
人見知りすることもなく
「ばあちゃん」と
発語し
「ばいばい」と
別れを告げた

流れている血が
母親の
母親の
その母親であることを
告げていたかのように

私が
生前の曾祖母と
最後にであった光景は
忘れられない

曲がった腰で
畑仕事をしていた
曾祖母が振り返って
私を
あどけない笑顔で眺めていた
母と
叔父たちが
曾孫であることを告げたとき
曾祖母は
涙を流し
「ありがたい・・・ありがたい・・・」
と手を合わせた

その姿に
戸惑った私だが
ただ
「しっかり
 長生きしてくださいね」
というようなことを
笑顔で伝えたように覚えている

あの光景から
私は
古語における「かなしい」が「愛おしい」であることを
直観的に知り
また
曾祖母が見てきた時代というものに対して
漠然とした興味をもち始め
それを手がかりに
100年前に生きてきた人たちの生き様など
考える機会を持つようになった

そして
その思考は
私が抱いていた幻想を
悪い意味でも
良い意味でも
打ち砕いてくれた

寂しく
仕事は厳しい
山の生活

でも
今の都市の生活と比べ
どちらが
もっと厳しいのだろう


山の村は廃れようとしている
曾祖母は目を閉じ
やがて
祖母や祖父も目を閉じるだろう
私の母は
山の生活には戻れないだろう

やがて
嘗て我が一族が息づいて
育まれてきた集落が
少しずつ
眠りについていく

やがて
一人立ち去り
一人目を閉じ
一人眠りにつき
すべてが閉じてしまう

私は
時折
あの山の元で
永い眠りに付くことに
最近憬れている

一人立ち去り
一人目を閉じ
一人眠りにつき
すべてが閉じてしまう前に

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