蛙の糸

2005年5月2日
3月中旬。
彼は、霊園周囲の舗道に
ひき殺された蛙の死骸をいくつも見た。

5月上旬。
突然の雨。
夜道を自転車で帰っていた。
そのとき、目の前に動く物体。
拳骨ほどの。

「蛙か」

まさしく、
大きな蛙がはいつくばっていた。

自転車を停めて
追ってみる。
元気に跳ね回る

図体がでかいためか
アマガエルのように
軽やかにジャンプできない
ぼてぼて
という擬音がとてもよく似合う。

程なく道脇のコンクリにぶつかり
身を縮こまらせている

久しぶりだ
蛙を触るのは
少しだけおっかなびっくり
触れてみる

わけなくつかむことができた
奴は逃げない
ただ
じっと縮こまっている

「そんなんだから、車に轢き殺されてしまうんだよ」
呼びかけても
まるで死んだように縮こまっている

コンクリの上においてみる
目を開く
つぶらな瞳だ
茶色で
でかい図体
醜いという形容詞が似合うのだろうが
瞳は
本当につぶらだ

To your safe place...

墓地に帰す
「しかし、いったいどこから来たんだい?」

3月のときは、ひとつの筋道に
少なくとも5体の轢死体(蛙体)があった
きっと
ほかにも
舗道に飛び出ている奴がいるに違いない

舗道は二つ
ひとつは自動車が入れない道
もうひとつは入れる
だから
割と車の交通量は多い

そっちの道に引き返す

「いるかな・・・」
ほどなく
「いた」
道の真ん中を
堂々と
ぼてぼてしている

少し鬼ごっこをして
また
彼は道端で死んだ振りをする
「だから車に轢かれるんだってば」

しっとりとしていて
暖かくもなければ
冷たくもない
彼は
つかまったまま
じっとこちらを見ていた

ゴキブリに比べたら
なんてことはない
ずいぶんかわいいものだ

もう一度
コンクリの上に乗せてやる
「さあ、ジャンプ!」

彼はまた舗道に落ちた
1mもない高さから落ちて
「う。痛そう」
ひっくり返ってもがいている
あまりにもかわいそうなので
元にひっくり返してやる
「痛くなかった?」
ひっくり返っていた様子は
腹を見せながら
首を背中まで付きそうにしながら
もがいていたから
つい
訊いてしまった
「痛くなかった?」
平然とつぶらな瞳で
ただじっと見つめる彼

も一度コンクリの上に乗せて
今度は墓地のほうに角度を付け
「ほらっ」
To your safe place...
少なくとも
この舗道の上よりは大丈夫。

蛙の轢死体は
無残だ
それに
せっかく頑張っておたまじゃくしから
成体になったのだもの

せっかくだから
車に轢かれる前にもっと
いろんなものを見ておいで
適当に子孫でも作って
お役御免のころに
老いてから逝きなさいな

鳴き声もあげず
ただつぶらな瞳で
毅然と見つめていた蛙
鳴き声もあげず
ただ縮こまって
死んだ振りをしていた蛙
鳴き声もあげず
ただぼてぼてと
あてどなく彷徨っていた蛙

もし
私が地獄に落ちたら
頑張って糸でも編んで
垂らしてくれればうれしいです

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