「奴は、経典に興味を持ち始めてから、いつごろだったかな・・・
 妙な話を切り出してきたことがあった・・・」

「酒を飲んでいた・・・珍しく、少し量が多かった・・・
 でも、目は冷たくて、語り口調そのものが冷めていた・・・」

「何でも、夢の話だったんだ・・・」

「俺は”野望でもあるのかい?”って聞いたけど
 ”いや・・・眠っている間に見た夢だ・・・”って
 視線をうつろにしながら答えて、とうとうと語り始めた・・・」

「言葉の全部を覚えているわけじゃない・・・」

「ただ、”悪魔と話をしたんだ”と切り出した
 あの瞬間の奴の恐ろしいまでの表情は覚えている・・・」

「奴は、悪魔と話をしたと言っていた
 よくある、魂を売るとか契約がどうだとかいうことじゃない・・・」

「悪魔が、奴に経典に関係のある話をしたと言っていた・・・」

「何でも、悪魔は神の意志でこの世にいるんだとか・・・
 いや、神は悪魔の意志でこの世にいるんだとか・・・
 難しいことを言っていたな・・・」

「なんでも、夢の中で奴が経典に関して追い続けていることに
 悪魔はアドバイスをしたとか・・・そんなことも言っていたな・・・」

「なんだっけ・・・」

「で、”俺は神に従うために悪魔に従うのかもしれない”
 なんてことを言っていた・・・」

「そんな話をぼんやりと聞いていた・・・
 しばらくしたあと、ふと奴の顔を見たら
 やたらとすっきりとした含み笑いをしていたよ・・・」

「”そうか・・・俺は俺らしく行くしかないよな”
 そんなことを言ったから、俺は
 ”お前はいつも頑固に我が道を行ってきたじゃないか”
 って言ってやったよ。」

「・・・そしたら、さらにはっとしたような顔をして
 本当に、ガキみたいに笑って俺の背中をたたいたよ・・・」

「”はっ、はっ、はっ・・・そうか、俺って
  最初っからこうだったんだよな・・・はっ、はっ”」

「・・・何がそんなに面白かったのか、今でもよくわからねぇけどな」

「・・・あれから、厳しいっていう奴じゃなくなって
 冷酷になっていったんだ・・・
 いや・・・なぜか、航海のときは異常に冷酷で・・・」

「プライベートに戻ったときの奴は、昔のまんまの
 どこか甘い、厳しくなりきれない奴だったんだがな・・・」

「・・・奴は、今、海の底をただよっているんだよな・・・」

酒場の女主人が、そっとグラスに琥珀色の液体を注いだ。
朽ち果てた目の色のルートゥは、その杯に広がる景色を
海に見立てながら、ふっとため息を漏らし続けていた・・・

コメント

nophoto
Edwin
2014年6月26日5:47

You know what, I’m very much innilced to agree.

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